日本企業のIT投資の目安は「売上高IT予算比率1%」

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経営者からよくいただくご質問に「IT投資はどのくらいするべきか?」があります。

結論から申し上げると、この問いに対する正解はございません。

企業によって実施すべきIT投資の内容・金額はまちまちです。

ただ、日本企業全体の状況や傾向を知っておくことは、自社がどのようなIT投資をどの程度するべきかを考えるうえで有用だと思いますので、この際に整理しておきたいと思います。

IT投資の目安は「売上高IT投資比率1%」

JUAS『企業IT動向調査報告書 2022』(P16~P17)によると、日本企業の2021年度の売上高IT予算比率のトリム平均値は1.15%です。

トリム平均値というのは、上下10%の異常値を除いた残り80%の平均値のことです。データに異常値を含む場合、単純な平均値ではなくトリム平均値の方が実態に近くなります。

売上高IT予算比率は業界によってかなりの差があります。例えば、卸売業・小売業の21年度のトリム平均値が0.80%であるのに対して、金融・保険業は5.69%です。

JUASの調査対象企業は「東証一部上場企業とそれに準じる企業」と、企業規模が大きいのが特徴です。

そのため、JUAS調査対象企業よりも規模の小さい中小企業の売上高IT予算比率は1%を下回っていると考えられます。

出典:JUAS『IT企業動向調査報告書2022』P17

また、日本経済新聞によると、日本の全上場企業および従業員100人以上の非上場企業の「売上高に対するIT予算」の平均は1.34%(2021年度)とあります。

21年度の売上高に占めるICT(情報通信技術)投資の比率が平均1.34%と20年度から0.04ポイント、19年度比では0.15ポイント増えた。(中略)

3%前後とされる米国や欧州とは開きがあるが、日本企業のICT投資も着実に増えている。

2022年11月4日 日本経済新聞朝刊 「桁違い」に挑み 市場開拓

売上高IT投資比率1.0%は自社のIT投資の水準が妥当かどうかのベンチマークになります。

自社の投資額がこの水準よりも極端に低ければ、ITを活用した業務効率化や顧客に対する価値向上が十分に行われていない可能性があります。

そのような会社ではIT投資を増やすことで収益向上を図れる余地が大きいと考えてよいでしょう。

IT投資と企業業績は相関する

2016年度 中小企業白書』によると、IT投資を行っている企業の方が、行っていない企業に比べると売上高、売上高経常利益率ともに高くなっています。

第2-2-1図 業種別に見たIT投資有無と業務実績の関係
出典:2016年度 中小企業白書

ここで気を付けなければいけないことは、「IT投資と企業業績との間には相関関係はあるが、因果関係があるとまでは言えない」ということです。

IT投資をすれば売上高や利益率が上がるとは必ずしも言えません。

なぜなら、業績が良い会社は投資余力が大きいため、より多くのIT投資ができるとも言えてしまうためです。

ただ、『2018年度 中小企業白書』によると、IT導入後の総合評価として、ITを導入して効果が得られてなかった企業は少数です。

「ほとんど効果が得られていない」が3.2%、「まったく効果が得られていない」が0.2%、「効果が得られたかわからない」が1.6%しかありません。

この調査には「IT活用をしていない」32.6%が含まれているのでこれを除くと、「IT導入をしたほとんどの企業は何かしらの効果は得られている」とは言えるでしょう。

第2-4-6図 IT活用の必要性、導入状況、効果(企業全体での総合評価)
出典:2018年度 中小企業白書

まずは守りのIT投資を実行してスタートラインに立つ

IT投資は目的によって「攻め」と「守り」に分けられます。

「守りのIT投資」とは、業務効率化や既存システムの維持・改修・運用といった投資です。

事業を営む上でスタートラインに立つために必要な投資と言えます。

守りのIT投資には以下のようなものがあります。

  • 端末(PC、スマートフォン、タブレット、レジなど)更新
  • ネットワーク環境整備
  • セキュリティ対策
  • グループウェア(メール、チャット、Web会議、掲示板、スケジュール管理、タスク管理など) 
  • オフィスソフト(表計算、プレゼンテーション、文書)
  • ストレージ(ファイル共有)
  • 財務会計
  • 経費精算
  • 人事労務(勤怠管理、給与管理)
  • SCM(販売・在庫・生産管理)
  • CRM・SFA(顧客・商談管理)

私の基本的な考えは「必要な守りのIT投資は実施すべき。ただし、クラウドサービスをフル活用して必要最低限に抑えるべし」です。

その理由は大きく2つあります。

  1. クラウドサービスの普及
    昨今はクラウドサービスが普及し、少額の費用で高機能のITサービスを利用できるようになっています。守りのIT投資は競争優位性に直接的に寄与することが少なく、ITを自社開発して運用する利点は大きくはありません。
  2. 攻めのIT投資の準備
    攻めのIT投資の効果を得るためには、取引先マスタや商品マスタ、販売実績などの業務データを記録・管理するための最低限のITインフラが必要になります。

中小企業向けのクラウドサービス検索サイトなど、中小企業向けのDX・IT活用に関するお役立ちサイトを以下のページでまとめておりますので、よろしければご参照ください。

 

 

攻めのIT投資はポイントを押さえて実行する

「攻めのIT投資」とは製品・サービスの高付加価値化や新製品・サービスの展開など、事業の拡大に直接的に寄与する投資です。

攻めのIT投資には次のようなものがあります。

  • データ活用基盤の構築・BIによる可視化
  • AIによる需要予測・故障予知
  • 顧客向けのアプリケーション開発

「守りのIT投資」は、企業による違いが少なく、競争優位性にも直接的に寄与することが少ないため、その領域での主流なサービスを選んでおけばほぼ間違いはありません。

それに対して攻めのIT投資はポイントを押さえていないと期待通りの効果は得られません

ポイントには次のようなものがあります。

  1. 投資の目的・狙いを明確にして、目標とする投資効果を定量化する
  2. 投資目的・業務プロセスに応じて自社に最適なソリューションを選択する
  3. 投資の目的・狙いを社内外の関係者に説明し、業務ルール・プロセスを変更する必要性を理解・納得してもらう
  4. 投資後は当初狙っていた効果が得られているかを継続して評価して、狙った効果が得られてない場合はテコ入れする

まずは小さく始めてみる

自社のIT投資が進まない原因として「IT人材が不足している」、「経営者自身がITに疎い」ことを挙げられる会社が多いです。

しかし、IT人材・ノウハウが不足しているのはどの会社も同じです。

ITの知識・経験よりも「業務の非効率さを何とかしたい」、「この程度のITは自社も導入すべきだ」といった問題意識があるかどうかの方が大切です

もしそのような問題意識を持つ社員がいれば、たとえITの知識・経験がなかったとしても、IT導入の推進役をその方に任せてみてはいかがでしょうか。

色々と心配は尽きないと思いますが、最近は国が社会人の学び直しを支援していることもあり、無料で質の高い学習コンテンツも増えてきています。

万が一導入に失敗したとしても、初期投資が小さいクラウドサービスであれば少額の損失で済みますし、自社に経験値が蓄積されて将来のIT投資の成功率は高まるはずです。

まずは小さく始めてみましょう!

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