【中小企業経営者向け】早わかり DX白書2023

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『DX白書2023』はDXを推進するうえでヒントとして有用な資料ですが、PDFで407ページもある大作です。私見も交えながら中小企業の経営者にポイントをお伝えします。

『DX白書2023』 進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション

全体のメッセージは「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」です。

クラウドサービスの普及、補助金の支援により、日本企業のIT活用は進んでいますが、DXの本来のゴールである顧客価値創出、ビジネスモデルのトランスフォーメーション(変革)まで至っている例はまだ多くはないようです。

それでは変革を成功させるにはどうしたらよいでしょうか。

DX成功のポイント①経営トップのリーダーシップ

第一のポイントは経営トップのリーダーシップです。

日本のDXの傾向として、部署ごとに個別に取り組んでいる割合が15.1%と大きいことが挙げられます。(図1)

図1 DXの取り組み状況 出典:『DX白書2023』P83

DXの成果が出ていると回答した日本企業は58.0%(図2)

成果が出ている企業でもデジタイゼーション、デジタライゼーションが中心です。新規製品・サービスの創出、ビジネスモデルの抜本改革などのデジタルトランスフォーメーションで成果が出ているのは2割程度しかありません。(図3)

図2 DXの取り組みの成果 出典『DX白書2023』P11
図3 DXの取組内容と成果 出典:『DX白書2023』P107 ※赤枠は筆者追記

部門ごとの個別の取り組みではDXの成果を出すのは難しいでしょう。

多くの中小企業では機能別組織を採用しています。DXの成果を出すには、1つの部門の中での取り組みではなく、経営トップが旗振り役となって全社横断的に取り組む必要があります

また、変化を前提としたアジャイル手法では、業務部門のより主体的なプロジェクトへの参画が求められます。業務部門としてはIT担当者やITベンダーに丸投げした方が楽なので、積極的に新しいやり方を採用しようとするモチベーションが生まれにくいものです。それも経営トップが現場に変革の必要性を説いて導くしかありません

今までのやり方を捨てる英断は経営トップにしかできないことです。

DX成功のポイント②問題解決力

第二のポイントは問題解決力です。

DXの成果評価について興味深いデータがあります。(図4)

図4 顧客への価値提供などの成果評価の頻度 出典:『DX白書2023』P18

顧客への価値提供などの成果について、アメリカ企業の約5割は毎週・毎月評価しているのに対し、日本企業の半数近くは「評価対象外」と回答しています。

理想と現実とのギャップを問題と認識し、問題を解消するためにやるべき課題を定め、その解決策を考えるのが問題解決のアプローチです。そして、解決策の効果を測定するためのKPIを設定します。

DXに取り組む前にこの論理関係を整理しておかないと、解決策を実施したことの効果はわかりません。

おそらく「評価対象外」と回答している日本企業の多くは、この論理関係を整理しないままDXを進めたのではと思います。

解決策の一つに過ぎないITの導入やデータ利活用が、それ自体が目的になってしまう例はよく耳にします。もしそうだとしたらDXの前に取り組むべきは問題解決力の習得です。

DX成功のポイント③マーケティング志向

第三のポイントはマーケティング志向です。

戦略の基本は外部環境のプラスの影響(機会)を捉えることです。ChatGPT、メタバース、AR/VR、ブロックチェーン。これらの技術がどのようなもので、自社の事業にどのように活用できそうかを日頃から考えていますでしょうか。

AIの活用においては、アメリカでは新サービスの創出、新製品の創出、集客効果の向上など、社外向けの事例が多いです。対して日本企業では生産性向上、ヒューマンエラーの低減・撲滅など社内向けの取り組みが多い傾向が見られます。(図5)

図5 AIの導入目的 出典:『DX白書2023』 P33

お客様が何を望んでいるのか、最新技術を使って自社はお客様に何が提供できるか、これはマーケティング志向です。マーケティング志向をもって日頃からお客様を向いて活動できているかどうか、これが日米のAI導入目的の違いに出ているように感じます。

経営陣のITリテラシーが重要

経営トップのリーダーシップのもとDXを推進するにはある程度のITリテラシーが必要です。

ITに見識がある役員が3割以上いる企業は約3割。アメリカは約6割。日本企業は2021年から2022年で6ポイントほど増えていますが、アメリカと比べるとまだまだ低い水準です。(図6)

図6 ITに見識がある役員の割合 出典:『DX白書2023』 P16

幹部候補には、計画的にITの知見が必要とされる立場を経験させるなど、ITリテラシーを高める取り組みが求められます。

DX人材をどう育てるか

日本とアメリカを比べると、日本では「特定技術を有する企業や個人との契約」、「リファラル採用」が少ないようです。(図7)

図7 DXを推進する人材の獲得・確保 出典:『DX白書2023』 P23

最近は副業やプロボノで働く優秀な方が増えています。その中には金銭的な報酬よりも、社会への貢献実感や実績作りを優先する方もいます。

経営資源が限られる中小企業にとって、副業やプロボノは内部にはないノウハウや知見を獲得する有効な手段になるでしょう。

なお、外部の専門家の支援を仰ぐ際には「経営者が知っておきたい 『外部専門家をその気にさせる力』」をご参考いただけたら幸いです。

しかし、高度で専門的な知見を外部人材に頼ったとしても、「会社の将来は自分が背負っている」という使命感を持った内部人材でないと改革は推進できません。

それではどのようにしたら変革をリードするDX人材を社内で育成できるでしょうか。

それは教育投資を増やす以外にありません。

外部研修受講の金銭的・時間的な支援、資格取得の奨励、副業の解禁、社内勉強会の開催など、できることは多くあります。

社員の成長なくして企業の成長はありえません。そしてDXプロジェクトの推進は経営幹部の育成の絶好の機会だと私は考えます。

その幹部育成の貴重な機会を活かさずに外部に丸投げするようでは会社の将来はありません

小規模・地方企業のDXの取り組み

売上規模・従業員規模が小さい企業ほど、また本社が地方にある企業ほどDXに取り組む割合が少なくなっています。

DX人材を採用しにくい、DXを支援してくれる企業がない、IT投資余力が小さいなど、地方の小さい企業がDXを進める上で不利な点が多いことはあるでしょう。

それでもDXに取り組んで成功している地方の中小企業は存在します

今回の白書には小規模・地方企業におけるDXの事例も多くあります。(『DX白書2023』 P52~P58)経営資源が限られる中小企業だからこそできる工夫があります。

「ピンチをチャンスにする」

他社事例に学びながら、ぜひDXに取り組んでみましょう!

まとめ:エグゼクティブサマリー

今回の『DX白書2023』ではエグゼクティブサマリーが提供されています。

DXの成功のためには、経営者のDXに関する理解が欠かせないとIPAや経済産業省が考えたのではと思います。お手すきの際に、ぜひご覧ください。

https://www.ipa.go.jp/files/000108048.pdf

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